三 コミュニケーション行為と討議

  • 1 討議においては、言語的発言だけが主題として許される。たしかに参加者の行為や自己表出は討議に伴いはするものの、それらは討議の成分ではない。そこでわれわれはコミュニケーション(あるいは談話)の二つの形式を区別することができる。一方はコミュニケーション行為(相互行為)であり、他方は討議である。
    • 了解は、コミュニケーション的行為において素朴に前提されていた妥当要求が問題視されるときに発生する状況を、克服することを目標にする。
  • 2 行為に付随する合意は発言の命題内容に、従って思念された事柄に関係すると共に、間主観的に妥当する相互的な行動期待に、従って規範にも関係する。

  

  • 3 コミュニケーションにおいて素朴に妥当している意味連関の四つのレヴェル
    • (a)相互人格的関係の語用論的意味(=発話行為において口頭言語化される)を志向的に伝達し、それ相応に把捉することができる
    • (b)自分達の発言内容の意味を志向的に伝達し、それ相応に把捉することができる
      • (a)(b)の合意に語用論的な障害が起こる場合は解釈で答える
    • (c)自分達がコミュニケートする思念された事柄の妥当要求を疑わない
      • 合意の障害には主張と説明で応対する
    • (d)自分たちがその都度従おうとしている行為規範の妥当要求を受け容れることができる
      • 障害には弁明を持って答える

  

  • but上記の返答は妥当要求に対して疑いを表明しているような質問を満足させるわけではない→討議の中でしか答えることはできない
    • 解釈を理論的解釈に、主張を命題に、説明を理論的説明に、弁明を理論的説明に変形する必要

なんで討議が必要なのかいまいちよくわからない

  • 4 討議が持つ位置づけを相互行為が持つそれから区別できるようにする観点として、最も重要な二つ
    • ①討議はそれ固有の要求に従って、行為にまつわる様々の強制の潜在化を要求する。
    • ②討議は妥当要求の潜在化を要求する。この潜在化によって、われわれはコミュニケーション行為の対象が実在するということをひとまず留保し、
      • (a)成り立っているとされているが、成り立っていないことも可能であるような事態と、
      • (b)正当だとされているが正当でないこともありうる勧告と警告とについて討論する
  • 5 真の合意と偽の合意とを区別する可能性については次節に後回し。規範の妥当要求の意味を明らかにすることを先にやる
  • 6 (操作できる対象としてでなく、主体としての)相手に出会う場合に、われわれはその相手には責任能力があるものと想定する。
    • このとき相手が「自分がなぜ、所与の状況でこのように振舞った/振舞わなかった」と述べることができるであろうことを前提とせざるを得ない。
    • 「もしわれわれが他者にたずねるならば、彼はわれわれと同じ仕方で自分の行為について理由を挙げることができる」という直感的知識は、二つの反事実的な期待において明らかにされる。
    • (a)行為する諸主体は、自分達が遵守している全ての規範に志向的に従っている、とわれわれは期待する。→相互行為そのものにおいては、相手が無意識の動機を持っている、とすることはできない。
      • ∵無意識の動機を帰す→間主観性のレヴェルを離れてしまい、他者を客体(それについて第三者とコミュニケートできるが、それ自身とはコミュニケートできないもの)としてとり扱うことになるから。
    • (b)行為する諸主体は、自分たちに正当だと思われる規範だけに従っている、という想定を含んでいる
      • したがって、現実に規範に従っておりながら、しかもその規範を承認しないであろうと考えられるような規範遵守の仕方を相手に認めることはできない。  
      • 責任能力ある主体は問題視された行為連関からいつでも歩み出て討議を始めることができる、とわれわれは想定する。
  • 8 イデオロギーの逆説的なはたらき:コミュニケーション封鎖(責任能力を互いに相手に負わせることを正真正銘の虚構にしてしまう)--それが虚構であることを見ぬけなくしたまま保持する正統的信念を支えている
  • 9 イデオロギーは、討議による基礎づけという規範の要求が認証され得ないからこそ、規範を見かけ上の弁明という意味で正当化するのに成功するときがある
  • 10 それならば、われわれは討議を行うつもりではじめるコミュニケーションの参加者として、このコミュニケーションそのもののなかで、「真の」合意と「偽の」合意との区別を正しく行うことができる、ということの他に頼りにできるのはない
  • 11 真の合意を偽の合意から区別する十分な基準がなければ了解は可能でないから、理想的発話状況を想定せざるを得ない